当教室では、難治性造血器腫瘍の病態を分子レベルで明らかにし、より有効な治療法の開発を目指して研究を行っています。各種分子標的薬や免疫・細胞療法について、その作用機序を解析し、治療効果を予測できるバイオマーカーの探索を行います。また、再発や治療抵抗性に関与する耐性機序の解明にも取り組み、臨床検体の解析と実験モデルを組み合わせたトランスレーショナル研究を推進します。これらの成果を通じて、患者さん一人ひとりの病態に応じた最適な治療選択を可能にし、造血器腫瘍に対する精密医療の実現と新規治療戦略の確立に貢献したいと考えています。
治療へと繋げるトランスレーショナルリサーチ
ベンチからベッドへ
難治性造血器腫瘍の病態理解に基づく治療法の開発
多発性骨髄腫における小胞体ストレス応答およびプロテアソームを標的とした治療法の研究
多発性骨髄腫は高いタンパク合成能や腫瘍微小環境との相互作用により小胞体ストレスに曝されており、その適応応答である小胞体ストレス応答(unfolded protein response, UPR)が細胞生存や治療抵抗性獲得に重要な役割を果たすことが示されています。一方で、過剰な小胞体ストレスは細胞死を誘導することから、UPRの制御機構は腫瘍特異的な脆弱性として治療標的となり得ます。本研究では、多発性骨髄腫における小胞体ストレス応答の分子基盤を明らかにし、その依存性を利用して腫瘍細胞死を誘導する新規治療戦略を開発するとともに、小胞体ストレス制御と既存治療(プロテアソーム阻害薬、分子標的薬、免疫療法)との併用効果を検討し、治療抵抗性の克服および臨床応用につながる知見を得ることを目的としています。
多発性骨髄腫における免疫調節薬の効果的な併用療法および感受性因子の研究
多発性骨髄腫に対しては免疫調節薬(IMiDs)が治療の中心的役割を担っていますが、その効果には限界があり、耐性の出現が大きな課題となっています。近年、抗体医薬や分子標的薬など新規治療の開発が進み、IMiDsとの併用による相乗効果が期待されています。本研究では、IMiDsの治療効果を最大化するために、有効な併用療法を探索するとともに、治療感受性や抵抗性を規定する分子・細胞学的因子を解明することを目的としています。これにより、多発性骨髄腫患者に対するより効果的かつ個別化された治療法の確立を目指します。
日本人コホートを対象とした多発性骨髄腫におけるゲノム異常とクリニカルシーケンス研究
多発性骨髄腫は多様なゲノム異常を背景とする造血器腫瘍であり、欧米では大規模なゲノム解析が進んでいる一方で、日本人独自のデータは不足しており、その全体像は十分に明らかにされていません。本研究では、日本人多発性骨髄腫患者を対象にクリニカルシーケンスを用いた包括的解析を行い、日本人独自のデータ不足を補いながら、治療反応性や予後に関連する分子異常を明らかにすることを目的とします。これにより、新たな診断バイオマーカーや治療標的の探索を進め、日本人に適した個別化医療の発展に寄与することを目的とします。
多発性骨髄腫の微小環境におけるストローマ細胞と血漿成分が免疫抑制にかかわる研究
多発性骨髄腫では腫瘍細胞のみならず骨髄微小環境が病態進展や薬剤抵抗性に深く関与しています。本研究では、腫瘍細胞およびストローマ細胞のまわりの血漿成分に由来する代謝物やエキソソームに着目し、それらが免疫抑制性微小環境の形成にどのように寄与するかを明らかにすることを目的とします。これにより、免疫回避機構の理解を深め、新たな診断マーカーや治療標的の探索につなげることを目指します。
多発性骨髄腫における免疫・細胞治療(二重特異性抗体やCAR-T細胞療法)の
感受性因子と効果的な併用薬の探索
二重特異性抗体やCAR-T細胞療法は多発性骨髄腫において大きな治療効果を示す一方で、効果の持続には個人差があり、再発や抵抗性の課題が残されています。その背景には、腫瘍の遺伝子異常や免疫抑制的な微小環境、T細胞の疲弊など多様な要因が関与すると考えられますが、未だ十分に解明されていません。本研究では、これらの感受性因子を明らかにするとともに、免疫調節薬や分子標的薬などの併用薬を探索し、その組み合わせによって免疫・細胞療法の効果を高める戦略の確立を目指します。
多発性骨髄腫における二重特異性抗体療法を受けた骨髄腫患者における効果予測と免疫病態に関する研究
多発性骨髄腫(MM)の治療オプションとして細胞免疫療法が導入され、より迅速に投与可能な二重特異性抗体が普及し、治療パラダイムの変化が期待されています。teclistamabやelranatamabは再発・難治性患者で60〜65%の奏効率と35〜40%のCR率を示しますが、効果のない患者も存在し、免疫不全に伴う感染症リスクも報告されています。本研究では、二重特異性抗体の効果や感染症リスクを予測する臨床応用可能なバイオマーカーを前向き臨床研究により探索することを目的とします。