RESEARCH 研究活動

臨床研究への取り組み
現場の疑問を、次のエビデンスへ

研究体制

当教室は、日常診療の中で生じた clinical question を出発点とし、その解決を目指した臨床研究を迅速かつ柔軟に進められる体制を整えています。単施設の後方視的解析から、複数施設との共同研究、さらには全国規模の臨床研究グループを活用した解析まで、多様な手法を駆使して診療の質向上とエビデンス創出に努めています。

県内外の協力施設との強固なネットワークにより、後方視的研究でも短期間で大規模データの収集が可能であり、新たな仮説の検証と臨床現場への迅速な還元を実現しています。また、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)などの臨床試験データを用いた副次的解析にも積極的で、既存の貴重なデータを最大限に活用し、新たな知見を導き出す「データの二次利用」にも力を入れています。

当教室の強み

  • 迅速な研究立ち上げ能力
    日常診療で得られた疑問を即座に研究計画へと落とし込み、倫理申請、症例収集、データ解析までをスピーディに進められる組織力があります。
  • 強固な共同研究ネットワーク
    県内外の医療機関や学会、班会議や臨床研究グループとの継続的な協力関係を維持しており、多施設共同での大規模データ収集が可能です。
  • 人材育成と研究文化の醸成
    若手医師が研究計画立案から論文化までを経験できる仕組みを整備し、診療と研究を両輪で進められる人材を育成しています。

多発性骨髄腫に関する主な研究業績

BLd療法の至適投与量確立(単施設PI試験)

Totani H et al. Int J Hematol. 2016 Mar;103(3):316-21
Bortezomib(BTZ)、Lenalidomide(LEN)、Dexamethasone(DEX)を組み合わせたBLd療法は、再発難治性多発性骨髄腫に有効であることが報告されていましたが、日本人患者における至適投与量・投与スケジュールは確立されていませんでした。そこで、当教室で第I相試験を実施し、安全性と忍容性を評価。その結果、BTZ 1.3 mg/m²、LEN 15 mgを推奨用量とするBLdレジメンを確立し、日本人患者への標準化に向けた基盤を築きました。

modified BLd療法の有用性(多施設共同PII試験)

Murakami S et al. Int J Hematol. 2022 Oct;116(4):563-569
高齢化が進む中で、移植非適応の未治療骨髄腫患者にも適用可能な治療法が求められていました。当教室は、多施設共同で皮下注BTZ(day 1, 8)+LEN(day 1-14)+DEX(day 1-2, 8-9)を3週サイクルで8コース投与するmodified BLd療法を第II相試験として検討。その結果、高齢者にも安全に施行可能で、良好な奏効率を示すことを報告しました。

t(14;16)骨髄腫の臨床的特徴(多施設共同後方視的解析)

Narita T et al. Blood Cancer J. 2015 Feb 27;5(2):e285
t(14;16)は骨髄腫の中で頻度が低いながら、代表的な予後不要染色体異常ですが、その病態は十分に解明されていません。当教室は多施設から35例のt(14;16)症例と、同染色体を有さない対照症例を集積し、詳細な比較解析を実施しました。t(14;16)はCD56陰性および高い増殖活性が予後不良に関与する可能性を明らかにし、治療選択の参考となるデータを提供しました。

染色体異常パターンとLd療法の効果(単施設後方視的解析)

Yoshida T et al. Int J Hematol. 2019 Aug;110(2):228-236
再発難治性骨髄腫に対するLEN+DEX(Ld)療法の効果は、染色体異常によって異なる可能性があります。当教室の解析では、hypodiploidパターンの中でもt(4;14)、t(14;16)を有する例はOS・PFSともに不良である一方、t(11;14)を有する症例では予後が比較的良好であることが示され、個別化治療の方向性を示しました。

ALアミロイドーシス診断における口唇唾液腺生検の有用性(単施設後方視的解析)

Suzuki T et al. Annals of hematology 2016; 95 (2), 279-285
ALアミロイドーシスの診断にはアミロイド沈着の証明が必要ですが、既報では皮膚や骨髄の生検が中心でした。当教室からは、口唇唾液腺生検の高いアミロイド検出感度を報告し、皮膚や骨髄に加えて、診断に有用な生検部位を提案しました。なお、本研究における組織におけるアミロイド沈着および沈着したアミロイドの由来に関する評価は、熊本大学アミロイドーシス診療センターの先生方よりサポートを賜りました。

抗CD38抗体療法後のCMV感染再燃リスク(単施設後方視的解析)

Matsunaga N et al. Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2024 Aug;24(8):531-536
抗CD38抗体は骨髄腫に対する極めて重要な治療選択肢として普及していますが、その免疫抑制作用によりCMV感染再燃リスクが高まる可能性が指摘されています。当教室は単施設後方視的解析により、CMV感染の再燃頻度やその臨床的影響を明らかにし、リアルワールドデータに基づいた知見を提供しました。

悪性リンパ腫に関する主な研究業績

DLBCLのCNS再発リスク因子解明(多施設共同後方視的解析)

Suzuki T et al. Br J Haematol. 2025 Jul;207(1):92-100
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)のCNS再発は予後不良であり、その予測は臨床上の重要課題です。当教室は協力施設からCNS再発例の病理組織と臨床情報を集積し、遺伝子変異解析を実施。その結果、MYD88およびCD79Bのhot spot変異がCNS再発の独立リスク因子であることを報告しました。

CNS再発後の至適治療探索(多施設共同後方視的解析)

CNS再発後の治療方針は確立しておらず、症例数の少なさが課題でした。当教室は400例超のCNS再発例を含む大規模多施設データを解析中で、治療選択と予後の関連を明らかにし、今後の治療指針策定に寄与することを目指しています。

CHOP(±R)療法後の心毒性評価(単施設後方視的解析)

Nakayama T et al. EJHaem. 2020 Oct 3;1(2):498-506
DLBCLの標準治療であるCHOP(±R)療法は心毒性のリスクがあり、特に高齢者や心疾患既往のある患者では注意が必要です。当教室は多数例を対象に、心毒性発症率、発症後の経過、リスク因子を明らかにし、安全な治療運用に貢献しました。

HBV既往感染患者における化学療法関連HBV再活性化のモニタリング

Hagiwara S et al. Hepatol Res. 2022 Sep;52(9):745-753
HBV再活性化評価の従来法であるHBV-DNA定量検査に代わる新たな指標として、iTACT-HBcrAg測定の有用性を報告しました。本法はHBV-DNA定量検査に比べて迅速かつ簡便であり、将来的にはHBV再活性化モニタリングの新たなスタンダードとなる可能性があります。

臨床試験データの副次的解析

JCOG1105の副次的解析

Suzuki T et al. Hematol Oncol. 2023 Aug;41(3):590-593.
多発性骨髄腫におけるMPB療法の第II相試験 (JCOG1105) データを用い、UK Myeloma Research Alliance Risk Profile の予後予測能を検証。Bortezomibベース治療ではその有用性が限定的である可能性を指摘しました。

JCOG0601の副次的解析

Nakashima T et al. Blood Neoplasia. 2025 Feb 16;2(2):100077
DLBCL治療において、治療中の有害事象によりVincristineを減量するケースがありますが、その臨床的影響は不明でした。JCOG0601 (第III相試験) のデータを用いて解析し、減量の影響はIPIやB症状などの既存の予後不良因子に比べて小さい可能性を明らかにしました。

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