血液・腫瘍内科学分野では、1) 造血器腫瘍の分子病態や免疫微小環境を探求する基礎研究、2) 患者さんの臨床と検体データを融合させて新たなバイオマーカーや治療標的分子を探索するトランスレーショナル・リサーチ(TR)、さらに 3) 新たな標準治療を確立することを目的とした臨床試験や治験、臨床的課題を探索するための臨床研究を実践しています。
リンパ系腫瘍を主な研究対象としており、多発性骨髄腫における染色体や遺伝子異常の意義、薬剤耐性化機序、免疫療法の効果に影響する骨髄微小環境や細胞外小胞の役割を解析してきました。また、中枢神経再発する悪性リンパ腫に特徴的な腫瘍細胞の遺伝子異常の同定とその機能解析、それに関連する病態解析にも取り組んでいます。さらには、分子生物学的手法を駆使して、成人T細胞性白血病や急性リンパ性白血病で活性化している遺伝子調節領域や非コードRNAの同定、シングルセル解析やゼブラフィッシュを用いた白血病・リンパ腫モデルの作成による腫瘍原性の評価も行なっています。
基礎研究やTRの意義として、造血器腫瘍の治療効果に影響する腫瘍細胞の遺伝子異常や免疫環境の把握は、新たなバイオマーカーとして精密医療(プレシジョン・メディシン)の実現、さらに患者さんの負担軽減と医療費抑制につながります。中枢神経再発した悪性リンパ腫の治癒は困難であり、初発時にそのリスクを把握して適切な予防法を確立すれば治癒率向上に寄与できます。また、これまで臨床分野で注目されなかったDNAの非コード領域の解析は、新たな診断法や治療法の確立につながります。臨床研究の目的は、より有効性の高い治療法の開発だけでなく、高齢患者さんに優しい治療法の開発にも取り組んでいます。
造血器腫瘍は希少疾患が多いため、名古屋市立大学医学部附属病院群や関連施設との共同研究を行うとともに、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group: JCOG)などの全国規模の臨床試験にも積極的に参画しています。最近はアジア諸国での臨床研究や国際治験も活発になり、当院も重要な役割を果たしています。