三田 貴臣

海外留学・独立体験記 ~これから入局をお考えの方へ~

現在の所属先
Principal Investigator/Assistant Professor, Cancer Science Institute of Singapore, National University of Singapore (シンガポール国立大学、がん科学研究所)

私の経歴には、ほぼ全てに名古屋の3文字が入っています。名古屋で生まれ、名古屋市立小学校、中学校を卒業し、私立の高校を経て名古屋市立大学医学部に入学しました。卒業後は血液・腫瘍内科学の前身である旧第二内科学に入局し、名古屋市立大学病院で研修医として2年、名古屋第一日赤病院で血液内科医として1年研修を行いました。30歳を過ぎてアメリカのボストン(ダナファーバーがん研究所)に留学するまで、一度として名古屋を出たことはありません。そのような外を知らない人間でしたので、留学時は本当に不安でした。最初の1年さえ生き残れるか分からず、家族や名市大の方々からのサポートが無ければ、いつ挫折していたか分かりません。

そのような私も、結果的にボストンでは6年半を過ごし、その後にシンガポールという第3国で研究室を開くに至りました。様々な方達との出会いを通して私の中で大きな変化があったのは確かです。しかし、間違いなく言えることは、自分を支えていたのは名古屋市立大学での経験であり、また、名古屋しか知らなかったことは決してハンデにならなかったということです。むしろ、それは海外で生き抜く上で大きな強みになりました。臨床で学ぶこと、直接病態に触れることは研究の最も大きな原動力であり、患者さんと接すること、医局で働くことは社会人としてとても大切な経験です。また、他を知らないことは、逆に言えば自分の中に全く未開の領域あることを意味し、自身を飛躍的に高められる可能性があります。

アメリカの研究者の多くは目標達成型のキャリアプランを持っています。自分の目標を明確にし、それに合わせて途中のプランを立て、中間目標の達成を重ねていく形でキャリアを積んでいきます。これは、継続や組織を重視する我々日本人医師研究者のキャリアプランとは異なるかもしれません。我々はこの違いを認識しておくべきかと思います。しかし、自身のキャリアプランを否定する必要はなく、必ずしもアメリカ型プランを取る必要もありません。これまでに達成してきたことに基づき、それを強みとして次なる目標を立てていくことで、自分の核となる部分を保ちながら、より強固なキャリアを作る事が出来ると考えます。

私は、名古屋市立大学で育ったこと、血液・腫瘍内科学で研鑽を積んだことを本当に誇りに感じています。血液・腫瘍内科学は世界に開けた医局であり、我々のキャリアを高めてくれます。志の高い医師、研究者の方々との出会いは何よりも財産であり、医局員の一人として、新たな仲間と一緒に仕事が出来ますことをとても楽しみにしています。